スペインの「トマト祭り」と聞くと、大勢の人が真っ赤なトマトを投げ合う光景を思い浮かべる人も多いでしょう。
正式名称は「ラ・トマティーナ(La Tomatina)」。
スペイン東部・バレンシア州の小さな町ブニョールで、毎年8月の最終水曜日に開催される世界的に有名な祭りです。
テレビやSNSでは、楽しそうにトマトを投げ合う様子が紹介されます。しかし、トマト農家として映像を見ると、少し違うところに目がいきます。
「120トンものトマトをどうやって集めるのだろう」
「これだけ大量のトマトが潰れたら、町中がトマトの匂いになりそうだ」
「完熟したトマトでなければ、当たったらかなり痛そうだな」
実際、トマトは品種や熟度によって硬さが大きく異なります。
スーパーに並ぶような少し硬めのトマトを、そのまま勢いよく投げれば、小さなボールに近い衝撃があります。
そのため、ラ・トマティーナには「投げる前にトマトを潰す」という重要なルールがあります。
この記事では、
- スペインのトマト祭りとはどのような祭りなのか
- ラ・トマティーナが始まった歴史
- 2026年の日程と当日の流れ
- トマト祭りのルール
- 祭りで使われるトマト
- スペインのトマト生産量や栽培方法
について、トマト農家の視点も交えながら紹介します。
スペインのトマト祭り「ラ・トマティーナ」とは?

ラ・トマティーナは、スペイン・バレンシア州ブニョールで開催されるトマト投げ祭りです。
ブニョールは人口約9,000人の小さな町ですが、祭り当日は世界各国から約2万2,000人の参加者が集まります。
開催日は毎年8月の最終水曜日です。
2026年は、8月26日水曜日に開催される予定です。
トマトを投げ合う時間は正午から午後1時までの約1時間。その間に約120トンものトマトが町へ運び込まれます。
現在は安全管理のためチケット制となっており、誰でも当日に自由参加できる祭りではありません。
ラ・トマティーナの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | ラ・トマティーナ(La Tomatina) |
| 開催地 | スペイン・バレンシア州ブニョール |
| 開催日 | 毎年8月の最終水曜日 |
| 2026年の開催日 | 8月26日(水) |
| トマト投げの時間 | 12:00~13:00 |
| 参加人数 | 約2万2,000人(チケット制) |
| 使用されるトマト | 約120トン |
トマト祭りはなぜ始まった?
ラ・トマティーナの始まりは、1945年とされています。
意外にも、最初から町おこしや農作物の収穫祭として計画されたわけではありません。
若者たちの喧嘩がきっかけ
当時のブニョールでは、「巨人と大頭人形」と呼ばれる大きな人形を使ったパレードが行われていました。
そこへ若者たちが乱入しようとして揉め事になり、近くの野菜売り場にあったトマトを投げ始めたことが、祭りの起源とされています。
翌年になると、若者たちは自分たちでトマトを持参し、再びトマト合戦を行いました。
これが毎年繰り返され、やがて町の恒例行事へと発展していきます。
ラ・トマティーナの起源にはいくつかの説がありますが、少なくとも豊作を祝う伝統的な収穫祭として始まったものではありません。
若者たちの偶発的な喧嘩から生まれた、非常に珍しい祭りなのです。
一度は禁止されたトマト祭り
現在では世界的な観光イベントとなったラ・トマティーナですが、1950年代には何度か禁止された歴史があります。
フランコ政権下の当局は、トマト投げを宗教的・政治的な意味を持たない公共の混乱とみなし、祭りを問題視しました。
それでも住民たちは祭りをやめず、無許可で参加した人が拘束されたこともあったとされています。
1957年に行われた「トマトの葬式」
1957年、住民たちは祭りの禁止に抗議するため、「トマトの葬式」を行いました。
巨大なトマトを棺に入れ、喪服姿の住民たちが葬送行進曲を演奏しながら町を練り歩くという、ユーモアを交えた抗議活動です。
この「トマトの葬式」は、祭りの復活を後押しした象徴的な出来事となり、その後ラ・トマティーナは正式な祭りとして認められました。
禁止から復活までの詳しい経緯には諸説ありますが、住民たちのユーモアと粘り強さが祭りを存続させる原動力になったことは間違いないでしょう。
偶然始まったトマト投げが町の文化となり、禁止を乗り越えて世界的な祭りへ成長したのです。
地域の祭りから世界的なイベントへ
1980年代以降、テレビや新聞などで紹介されるようになると、ラ・トマティーナは世界中から観光客が訪れるイベントになりました。
2002年には、スペインの国際観光行事にも認定されています。
一方で、参加者が急増したことにより、安全面や町の混雑が問題になりました。
現在では、
- チケット制
- 参加人数の制限
- 警備員の配置
- 交通規制
- 投げる時間の制限
などが導入されています。
かつては地元の若者たちが自由に行っていた祭りですが、現在は安全管理された国際的な観光イベントへと変化しています。
2026年のトマト祭りの日程とスケジュール
2026年のラ・トマティーナは、8月26日水曜日に開催される予定です。
トマト投げが行われるのは、正午から午後1時までの約1時間です。
ただし、祭りは正午に現地へ行けばすぐ参加できるものではありません。当日は早朝から交通規制や入場確認が行われます。
早朝|参加者がブニョールへ到着
参加者は早朝からブニョールへ集まります。
町の中心部では交通規制が行われ、バレンシアからブニョールへ向かう鉄道やバスも混雑します。
ブニョールは大規模な観光都市ではないため、約2万2,000人が一度に訪れる祭り当日は、移動にも時間がかかります。
午前中|パロ・ハボン
トマト投げが始まる前には、「パロ・ハボン」と呼ばれる伝統行事が行われます。
石けんを塗った長い棒の上に生ハムを取り付け、参加者がよじ登って取ろうとするものです。
棒は非常に滑りやすいため、一人で登るのは難しく、参加者同士が協力して人の土台を作ることもあります。
以前は、生ハムが取られることがトマト投げ開始の条件とされていました。
現在は安全管理や進行の都合もあり、生ハムが取れなくても予定時刻になるとトマト投げが始まります。
12時|トマト投げ開始
正午になると開始の合図が鳴り、トマトを積んだ大型トラックが町の中心部へ入ってきます。
トラックの荷台から大量のトマトが投入され、参加者が一斉に投げ始めます。
約120トンのトマトが狭い通りで踏み潰されるため、道路は短時間で赤い果汁と果肉に覆われます。
13時|終了の合図
開始から約1時間後、終了を知らせる合図が鳴ります。
この合図が鳴った後は、トマトを投げてはいけません。
終了後は消防車や清掃スタッフ、住民によって、道路に残ったトマトがすぐに洗い流されます。
農家として気になるのは大量のトマトの匂い
トマト農家として少し気になるのは、祭りの映像からは伝わらないトマトの匂いです。
農園でも栽培終了後には、樹に残った果実や販売できないトマトをまとめて廃棄することがあります。
少量であればそれほど気になりませんが、熟したトマトが大量に集まると、トマト特有の青臭さと甘酸っぱい匂いがかなり強くなります。
さらに果実が潰れて時間がたつと、発酵したような匂いも混ざってきます。
ラ・トマティーナでは、約120トンものトマトが町の通りで一斉に潰されます。
映像では町全体が赤く染まる光景に目が向きますが、実際にはブニョールの町中がかなり強いトマトの匂いに包まれるのではないかと想像してしまいます。
安全性や道路の汚れだけでなく、匂いや腐敗を残さないためにも、祭り終了後の迅速な洗浄は欠かせないのでしょう。
トマト祭りにはどのようなルールがある?
ラ・トマティーナは、大勢の人が狭い通りに集まるイベントです。
一見すると無秩序な祭りに見えますが、実際には参加者全員がルールを守ることで成り立っています。
トマトは投げる前に潰す
最も有名なのが、「投げる前にトマトを手で潰す」というルールです。
トマトは熟度によって硬さが大きく変わります。
トマト農家としては、収穫直後の少し硬いトマトを勢いよく投げれば、かなり痛いだろうと想像します。
完熟して柔らかくなったトマトなら衝撃は小さくなりますが、それでも目や顔に当たれば危険です。
そのため、参加者は投げる前にトマトを握り潰し、できるだけ柔らかくしてから投げます。
トマト以外のものを投げない
瓶や石など、トマト以外の硬い物を投げることは禁止されています。
衣類を投げたり、他人の服を破いたりする行為も認められていません。
トラックには近づかない
祭りでは、トマトを積んだ大型トラックが人で埋め尽くされた狭い道路を進みます。
運転席から周囲の参加者が見えにくいため、トラックへ近づきすぎるのは非常に危険です。
トラックが通る際は十分な距離を取り、運営スタッフの指示に従う必要があります。
終了の合図を守る
午後1時に終了の合図が鳴ったら、すぐにトマトを投げるのをやめます。
祭りの熱気が残っていても、終了後に投げ続けてはいけません。
約2万2,000人が安全に祭りを終えるための大切なルールです。
トマト祭りで使われるトマトの品種は?

トマト祭りについて検索すると、「ペラトマト」や「エクストレマドゥーラ産の加工用トマト」が使われていると説明されることがあります。
ペラトマトとは、洋ナシ形や長卵形をした加工用トマトのタイプです。
スペインやイタリアでは、トマトソースや缶詰などにも広く利用されています。
ただし、ラ・トマティーナで毎年必ず同じ品種が使われるとは限りません。
「ペラ」という言葉も単一の品種名ではなく、形や用途によるタイプ名として使われることがあります。
日本で「ミニトマト」や「フルーツトマト」と呼ぶように、果実の形や用途による分類として使われる場合があります。
祭りで使うトマトには、
- 十分に熟していること
- 果皮や果肉が柔らかく潰れやすいこと
- 大量に調達できること
- 生鮮販売向けより安価であること
などが求められます。
スーパーに並ぶ形の整った高品質な生食用トマトを、そのまま大量に投げているわけではありません。
規格外トマトだけを使っているのか
ラ・トマティーナでは、規格外品や余剰トマトが使われていると紹介されることがあります。
公式案内によると、使用されるのは全国の農業協同組合などから集められたペラタイプのトマトです。
味や外観などの理由から、生鮮用としてスーパーに並ぶ基準を満たしにくいトマトが利用されており、祭りに使われなければ畑で処分される余剰分も含まれると説明されています。
一方で、約120トンものトマトを毎年決まった日に確保するためには、事前に生産者や農業組織と調達計画を立てなければなりません。
偶然発生した規格外トマトだけで、必要量を安定してそろえるのは難しいでしょう。
そのため、ラ・トマティーナは、偶然出た規格外品だけを集めた食品ロス削減イベントというよりも、通常の生鮮流通に向かないトマトを計画的に調達し、観光資源として活用している祭りと考えるのが自然です。
スペインは世界有数のトマト生産国
トマト祭りで有名なスペインですが、実際の農業においてもトマトは重要な作物です。
スペインの年間トマト生産量は、年によって変動するものの、おおむね400万トン前後です。
生食用だけでなく、トマトソースや缶詰などに使われる加工用トマトも多く栽培されています。
近年の生産量は、次のように推移しています。
| 年 | 生産量 |
|---|---|
| 2019年 | 約500万トン |
| 2020年 | 約431万トン |
| 2021年 | 約475万トン |
| 2022年 | 約365万トン |
| 2023年 | 約397万トン |
年ごとの変動はありますが、2010年代後半と比較すると、近年の生産量はやや低い水準にあります。
その背景には、
- 干ばつ
- 灌漑用水の不足
- 肥料や資材価格の上昇
- 人件費の上昇
- 栽培面積の変化
- 他国産トマトとの競争
など、複数の要因があると考えられます。
スペインのトマト栽培を支えるアルメリア

スペインの施設園芸を代表する地域が、南部アンダルシア州のアルメリアです。
アルメリアには、白いプラスチックフィルムで覆われた温室が地平線まで広がっています。
この景観は、「プラスチックの海(Mar de plástico)」と呼ばれています。
アルメリアではトマトのほか、
- ピーマン
- ナス
- キュウリ
- ズッキーニ
- メロン
- スイカ
など、さまざまな果菜類が栽培されています。
温暖な冬と豊富な日射が強み
アルメリアは年間降水量が少ない乾燥地域ですが、冬でも比較的温暖で、日照時間が長いという特徴があります。
トマトの生育には、温度だけでなく十分な光が必要です。
アルメリアでは冬でも日射量を確保しやすいため、北ヨーロッパで野菜の露地栽培が難しくなる時期にも、トマトや果菜類を生産できます。
また、北ヨーロッパの高度環境制御温室と比較して、暖房への依存を抑えながら栽培できることも大きな強みです。
冬から春にかけてヨーロッパ各国へ野菜を供給できるため、アルメリアはEU市場を支える一大産地へ発展しました。
点滴灌漑で限られた水を効率よく使う

アルメリアは雨が少なく、慢性的な水不足を抱えています。
そこで重要になるのが、点滴灌漑(ドリップ灌漑)です。
点滴灌漑では、チューブやドリッパーを使い、トマトの株元へ少量ずつ水を与えます。
畑全体に水を流す方法と比べ、必要な場所へ水を集中して供給しやすいのが特徴です。
点滴灌漑には、
- 水を根の周辺へ効率よく供給する
- 水と一緒に肥料を細かく与えられる
- 土壌水分を安定させやすい
- 過剰な灌水を抑えやすい
といった利点があります。
日本でも養液栽培や養液土耕で広く使われていますが、スペインでは広大な施設園芸地帯を支える重要な技術となっています。
ただし、点滴灌漑を導入するだけで、必ず節水や増収につながるわけではありません。
日射量、気温、土壌、培地、水質、根の量などに合わせ、灌水の回数や量を調整する必要があります。
スペイン型ハウスは利益を重視
アルメリアで広く使われてきた温室は、オランダのガラス温室や日本の高機能ハウスとは少し考え方が異なります。
鉄柱とワイヤーで骨組みを作り、その上にプラスチックフィルムを張った比較的シンプルな構造が中心です。
スペイン型ハウスでは、
- 建設費を抑える
- 暖房費を抑える
- 自然の日射を最大限利用する
- 必要以上の設備を導入しない
という考え方が重視されています。
単位面積あたりの収量だけを追求するのではなく、設備費やエネルギー費を抑え、最終的にいくら利益が残るかを考えた施設園芸といえます。
もちろん、日本には台風や積雪があるため、アルメリアの簡易ハウスをそのまま導入することはできません。
それでも、地域の気候に合わせて必要な機能を選び、過剰な設備投資を避けるという考え方は、日本の施設園芸でも参考になります。
日本の農業がスペインから学べること
スペインと日本では、気候、土地条件、流通構造、販売価格が異なります。
そのため、スペインの施設や栽培方法を、そのまま日本へ導入することはできません。
しかし、
- 必要以上に設備投資をしない
- 地域の気候や日射を活用する
- 水や肥料を効率よく使う
- 選果や販売を組織で行う
- 収量だけでなく利益を重視する
といった考え方は、日本農業にも参考になる部分があります。
高価なハウスや環境制御設備を導入すれば、収量が増える可能性はあります。
しかし、建設費、暖房費、電気代、修繕費、減価償却費が増えれば、収量が増えても利益が残らないことがあります。
スペインの施設園芸から学ぶべきなのは、単純な低コスト化ではありません。
その土地の気候や販売方法に合わせ、必要な設備と生産量を見極める姿勢ではないでしょうか。
まとめ
スペインのトマト祭り「ラ・トマティーナ」は、1945年の若者たちの喧嘩をきっかけに始まったとされています。
一時はフランコ政権下の当局によって禁止されましたが、住民たちによる「トマトの葬式」などの抗議を経て復活しました。
現在では、世界各国から約2万2,000人が集まる国際的な観光イベントとなっています。
2026年は8月26日水曜日に開催され、正午から午後1時までの約1時間、約120トンものトマトが投げ合われる予定です。
使用されるのは、主にペラトマトと呼ばれる加工用タイプのトマトです。
生鮮販売の基準を満たしにくいものや余剰分も利用されますが、毎年120トンを確保するため、事前に計画的な調達が行われています。
また、スペインは年間約400万トン前後のトマトを生産する、ヨーロッパ有数のトマト生産国です。
南部アルメリアでは、温暖な冬と豊富な日射を活かし、
- シンプルな施設
- 点滴灌漑
- 効率的な栽培管理
- 組織的な選果と販売
によって、ヨーロッパ各国へ大量のトマトや野菜を供給しています。
トマト祭りは、単なる「食べ物を投げるお祭り」ではありません。
若者たちの悪ふざけから始まった出来事が、住民たちの手で守り抜かれ、地域の歴史や文化、そしてスペインの農業を世界へ発信する象徴的なイベントへと成長しました。
トマト農家としては、町中を真っ赤に染める光景だけでなく、約120トンの熟したトマトが一斉に潰れたときの匂いや空気感も気になります。
映像では伝わらないトマトの香りまで含めて、一度は現地で体験してみたい祭りです。

